“すきま風と未完成な歌”、共作記念、二人で歌詞についての対談した模様です。


■橋本愛里

 

ガールズバンド『スパンクル』のボーカル。2010年にミニアルバム“水深200メートルから見た光”を発表。HMV選考のキャンペーン「NEXT ROCK ON」で最優秀ルーキーに選出される。ライブハウスだけでなく、小学校や舞台系の専門学校、地域イベントなど、様々な場で演奏活動を行っている。

学生時代は考古学専攻、平安時代の屋根瓦について研究。特技は竹馬。趣味はスクラップブック作り。住まいは人形劇団の稽古場と屋根裏にかりぐらし。

 

HP http://www.virgomusic.com/spancle/

blog http://ameblo.jp/spancle-airi/

 

 

■satohyoh

 

秋田県出身。不定型バンド『ukishizumi』で音楽会を企画。OMAGATOKI制作のジョン・レノン・トリビュートアルバム「#9 DREAM」、インディーズレーベル「clear」の東日本大震災チャリティー配信アルバム「one for all, all for one」、インディーズレーベル「T RUST OVER 30 recordigs」の「Free Compilation Vol.1」などに参加。


 

「対談を始める前に」

 

 

佐藤  初めて会ったのは、上京してすぐだから十代の頃だった。でも第一印象が最悪だったらしいね。

 

橋本  ライブで楽器を粗末に扱ってたから・・。

 

佐藤  かなり激しめのバンドをやっていたので。でも楽器を壊したことはないよ(困)。

 

橋本  初めてあのバンドを見たとき、怒って帰りました。楽器が危ない!って。二回目見たときは、曲はいいんですけど、やっぱりパフォーマンスが・・。

 

佐藤  初期衝動のつもりで、でも今思えばかっこつけてたね。

 

橋本  アンケートに「ギターを大切にしろ!」って書いてぐしゃって渡した記憶があります。でも、めぐみ(スパンクル・ベース中島)にCDを借りて聴いていくうちに、やっぱり曲はいいなって。聴くうちにどんどん好きになったので、解散を知ったときは悔しかったです。

 

佐藤  3年くらいやったのかな、あのバンドは。その後にライブを行き来することが多くなって、一緒に演奏したり、お世話になってます。今日はお互いに持ってきたこれまでの歌詞を見比べながら話せればと思います。歌詞を書き始めた頃とか、時々の話を。

 

橋本  うまく話せるか不安ですけど、よろしくお願いします。(終始オドオドしている)。

 

佐藤  緊張するような場じゃないよ。まずは、簡単な話にしよう。自己紹介的なことからにしましょうか。

 

橋本  はい。

 

 

 

 

 

「近くにいるのに、届かない、私の気持ちと、ケンタッキー・・・?」

 

 

佐藤  この、プロフィールに書いてある、人形劇団の稽古場に仮住まいっていうのは?

 

橋本  両親が人形劇団をしているので、その稽古場と事務所があって。その上がロフトみたいになっているんですけど、私はその1畳くらいのスペースに寝てます。

 

佐藤  すごいな。楽しそう。ログハウスみたいな感じ?

 

橋本  いや、全力でプレハブです。

 

佐藤  ・・・?

 

橋本  そこに引っ越す前は、おばあちゃんの家に住んでたんですけど、そこはそこで、お届けケンタッキーが届かないようなところでした。

 

佐藤  ・・・・ずっと東京の話だよね?

 

橋本  東京です。ケンタッキー、家のすぐ近くにあるのに、届かなかった。

 

佐藤  “近くにいるのに届かない”って、スパンクルの歌詞っぽくはあるけど、近くのお店なのになんで届かなかったの?

 

橋本  家のまわりが森みたいになってて、しかもすっごく古い家だから、これ人住んでるのか?って、気づかれなかったみたいで、素通りされたみたいです。

 

佐藤  うちの実家も築何十年の田舎の家だし、ピザも届くわけない田んぼの真ん中だから、同じようなものだけど、東京で同じ経験している人がいるとは。

 

橋本  テレビもなかったし、冷蔵庫もなかったし。

 

佐藤  よしいくぞう?笑。古い家に住んでると、コンプレックスとかなかった?僕はあったよ。友達の家に遊びに行ったときとか。

 

橋本  一時期はあったかな。こう、理想的なマイホームみたいなものに憧れが。でも、だんだんなくなりました。自分のなかでは普通なことが、いざ言葉にしてみたら普通じゃないって言われるのは、うれしいなと今は思います。

 

佐藤  コンプレックスは歌詞になりやすいから、お互いにたくさん音楽になり得る素材が詰まってる生活してたのかもね。それを音楽にできたら理想的だと思う。例えば同じ言葉でも、東京ではこう発音するけど、秋田だとこうみたいなものが、自然に出せたらいいなって。わざと方言で歌うわけじゃないけど、なんだかしっくりくる感じ。隠しツールみたいな。形容詞とか、歌い方の癖とか、そういうところじゃないもの。生まれ育った環境とか、自分のなかの当然な部分、そういうのが出せたらいいなとは常々考えるね。

 

橋本  いいですね。歌詞を書いたり、音楽を作るようになってからは、それも良かったなと思いましたね。自分ではわからないけど、そういう子どもの頃の経験が出てるのかな。

 

佐藤  橋本さんはボーイッシュな曲とかが合う感じ。だから子供の頃のこととか、いわゆる青春な感じをずっと歌える人だと思う。

 

橋本  それのせいかはわからないですけど、自分のことを「僕」って歌うときの方が落ち着きます。中性的な曲っていうのかな、そういうのが落ち着きます。言われてみて気づくことですけどね。

 

 

 

 

 

 

「あなたの卑屈、請け負います、みたいなね」

 

 

佐藤  では、歌詞を見ていこう。持ってきてもらった歌詞の中で、いちばん古いのはどれかな。

 

橋本  『夜明け』かな。自分で作ったもののなかでは最初です。高校を卒業した頃くらい。

 

佐藤  この頃に一度、ライブで見た気が。橋本さんの曲、基本、片思いだよね?

 

橋本  (笑)。この頃は、単純に、恋とか無縁な外見をしてたので。

 

佐藤  いや外見普通だったよ・・?

 

橋本  いやいや。こんな私でも普通に恋もしてるしちゃんと生きてるよ!って言いたい歌詞が多かった気がします。

 

佐藤  自信がない、はキーワードなのかな。ちょっと卑屈になっちゃう人が、聴いてハマるというか。どうせ自分なんて・・・でも本当は・・・っていう。

 

橋本  そうそう、まさにそういうのを作りたくて。

 

佐藤  あなたの卑屈、請け負います、みたいなね。

 

橋本  自分なんて・・・はずっとテーマですね。

 

佐藤  こちらで持ってきたのでいちばん古いのは、19歳のときに作った『トリッキンランデヴー』って曲だけど・・タイトルがチャラい。苦笑。こうして見比べても、やっぱり初期の曲って、とにかく「君」が多い。もう「君」だらけ。

 

橋本  本当ですね。『夜明け』は特に「君」ばっかり。こうして見ると、『トリッキン~』って歌詞短いんですね。佐藤さんの歌詞はめちゃくちゃ長くて細かい印象があるのに。

 

佐藤  ここからだんだん長くなっていくけどね。最近なんて7分とか当たり前だから。しかも早口でね。スパンクルはこれを見る限り、逆だね。初期の方が言葉数は多くて、だんだんシンプルになってる。

 

橋本  同じ言葉をあえて繰り返すようになったのもありますね。『夜明け』は最初、「君は土星で僕は輪っか」みたいな歌詞を書いてきて、それをみんなに直してもらった記憶があります。ミスタードーナッツで。これ意味わかんないよ・・・って言われて。笑

 

佐藤  土星だしドーナッツだし。

 

橋本  あ・・。ライブハウスに出るために、オリジナルを作らなきゃいけないと思って、3曲作ったなかの1曲です。見返すと、恥ずかしさもあるけど意外なことを思って、面白いですね。

 

 

 

 

 

 

「初期はかなりドロってます」

 

 

佐藤  初期の作品で、この歌詞はうまくいった!っていうのはどの曲?

 

橋本  『指輪』とか。これも18歳くらいの頃です。

 

佐藤  これは・・・暗い。

 

橋本  初期はかなりドロってます。好きな人に彼女がいるってわかったときの気持ちを歌にしたり。この曲も最初は、その好きだった人の名前を仮タイトルにしてて。

 

佐藤  橋本さんのそういうところ、すごくいいと思うよ(笑)。実体験っていうのもあるのか、ずっとわかりやすい言葉で綴ってるね、難しい言葉は使ってない。それは今も一貫してるのかな。

 

橋本  本を読んだりするときは、難しい表現のものの方が好きなんですけど、自分が作るものはそうですね、できるだけわかりやすいものがよくて、自分に合っているというか。

 

佐藤  でも面白いのが、同じ時期の曲でも、『空に知られぬ雪』だけちょっと違うね。他のものが、すごく現実的で物語を追ってるように進むのに、この曲はずっと写実的というか、情景だけを描いてる。

 

橋本  佐藤さんはそういうの得意ですよね、風景とかを見せる歌詞の書き方。この『海のカナリヤ』って、たしかイルカのことって言ってましたよね?

 

佐藤  そう、白いイルカ。イルカが鳥になりたいから陸を這ってって、飛ぼうとする歌だね。でも飛べなくて腹が擦れて傷ついて、最後は・・っていう。この頃は暗い曲ばっかり。

 

橋本  サクサク曲を作っている印象があるんですけど、浮かんだら早いタイプですか?

 

佐藤  そうだね、橋本さんに歌ってもらった『すきま風と未完成な歌』は、一晩だったね。

 

橋本  びっくりしました。たしか夜にメールで打ち合わせして、起きたらデモが届いてたから。めちゃ早っ!って。

 

佐藤  夜勤だから、休みでも夜起きてるのよ。まだ暗いうちに散歩してて、サビの「きっと私は未完成で、そのすきま風が歌になる」っていうフレーズが浮かんだから、そこからはすぐだったね。急いで帰って歌詞書いて、録音して。

 

橋本  レコーディングした時は、優しく歌うことに苦労しました。落ち着いたイメージなんだろうなっていうのはわかったんですけど、変に意識しちゃうのもダメだし。

 

佐藤  家庭の事情でレコーディングも一回なしになっちゃってね。秋田と東京を何往復もして、本当にバタバタして申し訳なかった。でも、やらなきゃいけないことが目の前にあるのは、辛いときには良かったよ。歌ってくれてありがとう。作れてよかったな。いい曲だよね。

 

 

 

 

「じゃあそれに対して、最近の歌詞は・・・」

 

 

佐藤  じゃあそれに対して、最近の歌詞を・・・えーと、『片想い宣言』って・・変わってない!むしろストレートになってる。

 

橋本  気に入ってます。

  

佐藤  初期と見比べると、同じ片思いを書いてるのに、深みというか、達観してきてるね。これだけ片思いばかり書いてると、もう凄味すら感じる。

 

橋本  でも、同時にそれが情けないっていう気持ちを書く曲が増えてきました。それじゃだめだよ、っていう。認めてあげる部分と、成長を促す部分と。自分に対しても言ってるんですけど。

 

佐藤  自分の気持ちを言いたい歌詞から、私はこんなですけど、同じようなあなたの力になりたいです、っていう風に変わったのかな。大きさというか、優しさというか。

 

橋本  もし成長できているなら、うれしいです。佐藤さんの歌詞は、気持ちと情景のバランスが変わってきてるかなって思えます。初期の曲ほど気持ちを抑えてる気がする。今は気持ちの部分が強くなっている気がします。

 

佐藤  歌詞にどこまで自分を投影させるかっていうのは、悩むとことだね。やっぱり最初の頃は、照れくささもあるけど、それ以上に自分が恋愛の歌を作ってもしょうがないっていう気持ちがあった。誰も興味ないだろうなというか。でも、じゃあ何になら興味もってもらえるかって考えたら、詩的なものとか、言葉としても作品になるものなら聴いてもらえるんじゃないかなって。今はそこが少しフラットなのかもしれないけど、相変わらず恋愛の歌は、もっと、かっこいい人のものだっていう気持ちもあるね。

 

橋本  『ロカ』とか好きでしたよ。あれはおもいっきり恋愛の歌ですよね?

 

佐藤  「僕の生き方を濾過したら」っていうやつね。確かに恋愛の歌だけど、いろいろ考えてるうちに全部消えちゃうっていう現実感のない話だからね。あ、片思いっぽい。

 

橋本  あ、だから好きなのかも。笑

 

佐藤  正直な言葉で歌詞を書ける人を羨ましく思うところもあって。それを続けてきたから「自分のことかも」と思ってもらえるんだろうし、聴いた人の背中を押せる曲になるんだろうね。言われたことないし。

 

橋本  笑。『すきま風~』の歌詞は思えると思いますよ。誰にでもある気持ちだと思うから。人と人の結びつきの歌ですよね。自分の足りない部分を補ってくれる人への感謝の歌。恋愛にも言えるかもしれないけど、信頼とかに近い。自分で歌うときと、誰かに歌ってもらうときでは、歌詞を書くのも違いますか?

 

佐藤  元々、誰かに歌ってもらうって前提で長く曲を作ってたから、その人の言葉になっても不自然じゃないかは気にするね。この人はこんなこと言わないだろってものは、思いついても使わないかな。今回も、橋本さんが歌ってもおかしくない言葉を選んだつもりです。

 

橋本  少し違うかもしれないけど、スパンクルは曲を作る人が二人いるので、陽子(スパンクル・ギター藤田)が作る曲と自分の作る曲の違いみたいなものが楽しいんです。自分が作った曲は当たり前だけど、陽子が作ったものも自分がいちばん上手く歌える自負があります。そういう関係性を、作曲者と歌う人で築くのが大切だと思います。

 

佐藤  いいことだね。曲を作れて歌えたら、ソロでもいいじゃんってなるけど、バンドである理由のひとつが、そういうところかもしれないね。あいつの良さは自分が出す!みたいな。笑。そういえば、アコースティックライブも最近はやってるよね?アレンジとか話し合うの?

 

橋本  アコースティックのアレンジの時は、葵(スパンクル・ドラム大島)が色々な案を出してくれます。めぐみ(スパンクル・ベース中島)がそれを受けて、曲を活かすために新しい楽器に挑戦してくれたり。そうしてアレンジすることで自分たちが曲の良いところを再認識できるので、今後もやっていきたいです。言葉の響きも変わってくるのか、あぁそういう意味なんだねって、気づかれるのもうれしいです。

 

 

 

 

 

「告白ニート」

 

 

橋本  いちばん新しいのは、『告白ニート』っていう曲です。根つめていっぺんにたくさん書きすぎて、書き尽くしちゃって空っぽになって、でも搾り出さなきゃって書きました。

  

佐藤  この曲はライブで初めて聴いたときから、すごくいいと思ってたよ。なんだろう、空っぽになった状態で作る曲って良かったりするよね。

 

橋本  どこかで、告白できないのはあなたのせいだって言って、楽になりたい気持ちで書きました。メンバーも最初からいいって言ってくれて。でも、ちょうど東日本大震災があって、「痛い」を繰り返す曲をライブで演奏するってどうなんだろうって悩んで。少し時間をおいて、発表しました。いいって言ってくれる人が増えて、ほっとしてます。

 

佐藤  そして、やっぱり片思いの曲。

 

橋本  でも、もう片思いの歌詞が出てこなくなった時でした。もう自分が搾りカスみたいになって、情けないなぁと思ってたとき、出来たのが『ないものねだり』って曲です。恥ずかしさとか、ダメなところとかが詰まってます。帰り道で転んで痛くて・・・。

 

 

佐藤  痛いときの曲が続くね。笑

 

橋本  笑。もう「はぁ・・痛いよう・・・」って言いながら書きまいた。ガリガリに痩せて弱ってる時期だったから、余計に痛くて。そういえば、佐藤さんに実話の曲はありますか?

 

佐藤  『クジラの歌のようだ(日常-α)』ていう曲が、日常と非日常の境目。同じく弱ってるときだね。最近だけど、もう疲れたーって。最初に話してた『トリッキンランデヴー』も自分では実話なんだけど、そうは思われないみたいだね。月の裏にイタズラ描きとか言ってるし。本当に山手通りの歩道橋で作ったんだけど。

 

橋本  ワクワクする歌詞ですけど、ただ、あれはいつか消えそうな幸せですよね。

 

佐藤  えっ!そんなこと考えてなかったな。

 

橋本  なんだか暗い影があるような・・。深読みしすぎですか?

 

佐藤  いや、あるかもしれない。きっとこんなドキドキは続かない、みたいな。いや、会話の流れで思いこまされている気もする。

 

橋本  笑。

 

 

 

 

 

「きっと私は未完成で、そのすきま風が歌になる・・・怪我をして、改めて歌いたいと思いました」

 

 

佐藤  そういえば友人に、CDを買っても歌詞カードは全然見ないっていう人がいてね、衝撃だったんだけど。子どもの頃から、なんなら聴かずに読む時間があったりしたから。でも、どれくらい歌詞カードって読んでもらえるものなんだろうね。

 

橋本  私も同じく読み込みます。できればひとりのときに。歌詞を読むだけで心が落ち着くときもないですか?自分が発表する曲も、歌詞も合わせて誰かの寂しいときに近くにある歌がいいなとか考えます。

 

佐藤  僕も歌詞は知って聴いてほしいけど、でもちょっとだけ、BGMでいいやって気持ちもある。

 

橋本  私はまだ、作り手と聴き手でじっくり繋がるところを夢見てるかな、そんな気がします。

 

佐藤  例えば9時に見たいテレビがあるから急いで帰るとか、聞きたいラジオがあるから深夜に起きるとか、そういうんじゃなくていいっていう。最初にその人の生活がメインであって、その風景の一部でいい。工夫はするけど、気がついてもらえたらラッキー、みたいに。前はもう、人生ちょっと変えちゃうくらい好きになって欲しいとか思ってたから、変わっちゃったね。

 

橋本  最近の佐藤さんの曲を聴いたとき、前よりなんだか優しさを感じるのは、そういうところかもしれないですね。やっぱりちょっと、色んなこと、欲とか、削ぎ落とされた気がする。

 

佐藤  欲だらけだよ。笑。聴き方は任せるけど、聴いてはくれよって思うし。予定より長くなってしまったね、最後に、これからについて聞かせてください。10年後とか、何してると思う?

 

橋本  つい最近、怪我をしてしばらく動けなかったんですけど、改めて、歌いたい!と思いました。うまくいかないこともたくさんあって、例えばまわりの同年代の女性と自分を比べてしまって、恥ずかしいなって思うときもあったんですけど。もう、少し前は歌ってる自分を恥ずかしいと思っちゃうくらい落ち込んでて。でもそれが、逆に歌えない時期があったおかげで、少し吹っ切れた気がします。私にはまず歌うことがあって、それを中心に生活があるだけなんだなって思いました。

 

佐藤  10年後も、歌ってるね、きっと。

 

橋本  バンドをやってたらいつか武道館!東京ドーム!って思うけど、まずは一人一人に寄り添う曲を作ることかなと思います。

 

佐藤  このまま片思いの曲を突き詰めていったら、10年後にどんな曲が生まれてるんだろうとも思うし、でもこの先いろいろ選択肢があるだろうから、家庭の幸せ、みたいな歌を歌ってる未来も同じくらいあるだろうし。

 

橋本  どうなんだろう。でも私は、両思いっていう状態も、片思いだと思うんですよね。

 

佐藤  それは、両想いだとしても、本当にはわかりあえてないってこと?

 

橋本  うん、全部は、ですけど。

 

佐藤  もしかしたら、両思いに人一倍、憧れがあるのかもしれないね。例えば、このアイスコーヒーにミルクを入れると、黒と白が混ざった色、コーヒーとミルクが混ざった味になるよね。この状態が、一般的に、両思いっていうイメージだと思うけど・・・・わかる?

 

橋本  わかります。自分と相手が混ざってる状態ですよね。

 

佐藤  そう。でも現実は、両思いはそういう状態ではないと思う。どちらかと言えば、このアイスコーヒーが入ってるグラスと、それが乗っているコースターの関係が両思いな気がする。

 

橋本  あぁ、なんとなくわかります。

 

佐藤  この二つで、ひとつ風景。お互いにそうであることが自然で、お互いを引き立てて。でもそれぞれがそれぞれに使い道があって、やっぱり一緒にあればそれがいちばん落ち着くというか。あ、これ両思いというか夫婦か。でもきっと、みんな混ざりあった状態に憧れる。

 

橋本  それは恋愛だけじゃなくて、友達や家族もそうですね。本当はもう、友達ならソウルメイト!という関係に憧れるけど、お互い干渉できない部分はある。

 

佐藤  橋本さんは、すっごくわかりあってる状態が、本当は好きなんじゃないかな?両思いでも片思い、という気持ちに反して、本当はすごく憧れてる。今回、歌詞を改めて見ながら話して、そんなことを思いました。

 

橋本  あぁ・・・こうして久々に自分の書いたものを読み返して、これからもっといい曲を作ろうって思えました。やっぱり昔のものにある良さで、今は失くしたものもあるけど、成長してるんだなと思えたし、まだまだやれるとところがあるなとも思えました。

 

佐藤  「未完成だから、すきま風が入ってきたり出て行ったり、それが歌になる」っていうね。まさに今の心境が表れた曲になったんじゃないかな。と、宣伝になったところで終わりにしましょうか。

 

橋本  はい。もっとなんか、ぐっとくるようなうまいことたくさん言いたかったな。

 

佐藤  笑。